No46. マルチセンダー - ロープランナープロ

 

ロープランナー、ロープランナープロ、ユニセンダー、ロープレンチ、シケイン/ジグザグ、アキンボ、ヒッチハイカー
(https://www.works-odsk.com/srt-by)

 

高所作業のワークポジションシステムについて、円滑性と安全性の2つの側面を日本とヨーロッパの2つの観点から分析し、それを現在使われているSRSクライミングデバイスに当てはめて書いてみます。
 

アッセント(登高)- ヒッチコード、メカニカルヒッチ、メカニカルデバイス、
ディッセント(下降)- ダブルヒッチコード、ヒッチコード+ロープレンチ、メカニカルヒッチ + ロープレンチ
斜め下降/ジャンプ - ビレイの低圧リリース、穏やかな減速
衝撃荷重 - 6kNでの滑り運動

 

アッセント(登高)
登る時はフットアッセンダーとニーアッセンダーに体重を掛けるので、クライミングデバイスには負荷が掛からずほとんど摩擦がない状態になります。クライマーがロープに体重を掛けた瞬間にクライミングデバイスはロープを締めてロックするよう機能します。同じようにヒッチコードも安全に登高できますが、下降ではコントロールが難しくなり危険性があることを忘れてはいけません。ロープレンチ等他のフリクションツールと組み合わせればヒッチコード使うことはできますが、他により優れたツールがあるため、一番のお勧めではありません。ジグザグ(ペツル)もヒッチコードと同じく、仕様書には登高時に体重を掛ける事は許されていますが、フリクションツールを併用しない下降は禁止されています。固定ロープシステム(SRS)ではヒッチコードがクライミングロープにしっかり食い込んでいるため、下降するにはヒッチコードに過剰な力を掛けなければなりません。そこで突然下降を始め、その熱でヒッチコードやロープを溶かし手を火傷させます。驚いて手を離せば急に停止してアンカーに大きな衝撃を掛けるという危険が生じます。SRSデバイスは、荷重の掛からない登高、体の確保、下降という3つの機能をスムーズに連続して行える器具で、現在いくつかの器具が選べ、それが当たり前になっています。しかしそれらの器具(マルチセンダー)が開発される以前にもSRSの為にいくつもの器具やテクニックが存在していました。現代のクライマーが簡単に使える器具の登場によって、それらの興味深いテクニックに触れることが無くなってしまった事も忘れてはならないと思います。

 

ディッセント(下降)
レスキューや高所作業の分野で長年使用されてきた下降用デバイス(ディッセンダー)がいくつもありますが、最新のSRSクライマーには使用されていません。この ”ボックス カム レバー” タイプの器具は色々なメーカーによって多くの種類が作られていますが、中でもペツルの I’d と RIG、ISCの D4 が有名です。このタイプのデバイスは構造も機能もシンプルで、ロープのある1点に強く圧力を掛けることで体を確保します。レバーを開いてからさらに引いていくと圧力が弱まり下降を始めます。これらのデバイスはロッククライマーにもよく使われます。トランゴのシンチ(現在はヴァーゴに変わりました)は、アーボリストのランヤードに装備すると使い勝手の良いデバイスです。ボックス カム レバーは、片手でレバーを操作しながら反対の手でロープを握って操作するのが典型的な降下テクニックです。クライマーは登下降の途中で両手を離すことができます。適正な降下速度は摩擦によってデバイスに生じる熱の温度によります。ラブ2のマニュアルには最大降下速度が明記されています。2つのヒッチコードを上下に重ねて使用することも可能です。これにより、より広い領域に荷重が分散されます。登るのは面倒ですが、知っているといざという時に助かる興味深いテクニックです。 ケヴィン ビンガムは併用すれば1本のヒッチコードでも使えるロープレンチを作りました。ペツルのメカニカルヒッチ ジグザグも、専用レンチ シケインを併用すればSRSで使えます。マルチセンダーの登場した順番は、ユニセンダー 、ロープランナー、ブルドッグボーン、アキンボ 、そして最新のロープランナー プロ。これらのデバイスはデザイン的な相違点はありますが、多くの類似点を持っています。 ユニセンダーはレバーの動きが小さいため片手での操作が難しいのですが、本体にロープを巻き付ける操作モードにすれば降下操作を簡単に行うことができます。ロープランナー、ブルドッグボーン、アキンボは共に大きなレバーアクションを使ってロープとの摩擦を調整しますが、3つの接触点と最大のレバーアクションを持つロープランナーがより降下がスムーズです。ロープランナー上部と中間の摩擦点で作られる独特で複雑な動きが、ロープに掛かる圧力と降下速度を微妙に制御してくれます。ブルドッグボーン、アキンボ、ヒッチ/レンチ、ジグザグと同様に、レバーを押し下げるとすぐに降下を始めますが、もう少しレバーを下げると再び摩擦が少し効くという機構があるのが特徴です。複雑ですが安定したコントロールが簡単にできるメカニズムです。

 

斜め降下
川のこちらから反対側に移動する場合を想像して下さい。その時2つのオプションが考えられます。1つは10m離れた橋まで岸に沿って歩き、5mの橋を渡って10m歩いて戻ってくるという方法、もう1つは助走をつけて川を飛び越える方法です。ツリークライマーにも同じようなオプションがあります。となりの枝に移動する時、下の枝又に一旦下りてからとなりの枝を上り返す方法か、または振り子のエネルギーを使って斜め下方にジャンプする方法です。どちらがより安全で良い方法かを断言することはできませんが、片手でデバイスを操作しながら滑らかなジャンプをし、もう片方の手で目標地点を掴めばそれが可能です。振り子で振られながらリリースする動作は派手な動きに思われますが、実際の移動距離は通常3mより短いため、デバイスとロープによる摩擦熱が劇的に熱くなることはありません。(長距離の垂直降下による摩擦熱の方がはるかに大きくなります。)
この記事の冒頭にリストアップしたマルチセンダーは全て2つの特徴を持っています。一つはロープがデバイスの内部を真っ直ぐに通っている事、二つ目は降下時に緩やかに摩擦力を解放する機構である事です。「片手ジャンプ」は通常、初心者には教えられませんが、アーボリストの重要なテクニックの一つで、徐々に体に覚えさせていくのがいいと思います。


衝撃荷重
荷重 6kN (約600Kg) はシットハーネスに座る人体が耐えられる上限であると言われています。これを超える負荷は内臓に深刻なダメージを与えます。フルボディハーネスを使えば、さらに高い荷重に耐えられるようになりますが、その前にデバイスが摩擦調整によって6kNをずっと下回る荷重に抑えてくれる事に注目してみたいと思います。 ODSKで行ったテストでは、一部のデバイスが2.5kNという比較的低い荷重でロープ上をスリップする事が確認できました。実際、ロープランナーやブルドッグボーンを使ったことのある人なら、速いスピードの降下ではすぐに止まらず、ゆっくりと減速するのを経験した事があると思います。自動車の運転でも緊急時以外は急ブレーキは避けたいものです。このような停止方法ならアンカーポイントに掛かる衝撃も少なくなるはずです。
はっきり言って、メカニカルデバイスはプルージックコードに比べ摩擦抵抗が少なく、クライマーが枝から足を踏み外してしまった場合にも僅かなスリップでゆっくり減速してくれるのです。


ロープランナープロ
ロープランナープロのプロモーションビデオでは開発者ケビン・ビンガムが登っているのが見られます。ケビンは非常に才能豊かなクライマーです。そして彼のセットは至ってシンプルで、フットアセンダーもロープロケットも使っていません。フットロックで20メートルほど登ってから、大きな木の枝から枝へ浮くように動き回っています。新しいロープランナーにはいくつかの改良が加えられています。最も印象的なのはエッジが丸みを帯びた事です。細部を見てみると、3つのスリックピンの使用でパーツを分解しなくてもロープに装着できるよう設計され、木の上でパーツを落とす心配がなくなりました。カラビナの取り付けとプーリーのメカニズムは旧タイプとほぼ同じですが、より洗練されています。しっかりしたチェストハーネスのアタッチメントポイントも装備され、さらにボラードの位置調整の目安となる5つのマークが付けられて、異なるロープへのセッティングがやりやすくなっています。僕が最大の改良点と思うのは、上部スパイン(背骨)の横にプラスチックのブロックが付けられた事です。これにより上に登っていくときにヘッドが下がり過ぎるのを防ぎ、上方向の移動時に邪魔な摩擦が掛からないデバイスに仕上がっています。さらに驚くことは、ロープのたるみを取る能力の高さで、ロープが水平になる難しい角度でもその機能を発揮します。ロープランナーは、垂直に登る時のたるみ処理の高さで知られていますが、僕はロープが水平に近い状態でもたる
みを自動的に取る機能に驚かされました。ロープとの接触部が凹形になっているため、突然ロープが動き出すことがなく、滑らかに滑り出します。僕はTRT(ツインロープテクニック)のクライマーなのですが、このロープランナープロに大きな感銘を受けたので、しばらくの間はこれを使ってSRSで登ることにしました。旧モデルからのグレードアップをお考えのクライマーにも、メカニカルデバイスを使い始めたいクライマーにも、このロープランナープロをお勧めします。