No45. ハーネスの選択

 

キーワード:ワークポジショニング、フォールアレスト、ハーネス、EN358、EN361

 

イギリスの厚生労働省 (HSE) は2005年に高所作業の法律を改正し、2メートルを超えるすべての作業において2つのロープシステム(メインロープと独立したバックアップロープ)の使用を義務付けました。メインロープとバックアップロープは別々のアンカーに取付け、ハーネスへも独立した2つのタイインポイントに連結する必要があります。アーボリスト業界では、常に2つのシステムを樹上で使う事が実用的で安全なのかどうか、について多くの調査が行われ、その結果次のようなガイドラインをまとめました。

 

樹上作業では、可能であればシステムを強度のある2つのアンカーポイントに連結するべきである。どちらのアンカーもクライマーや作業機材そして予測できる荷重を十分に支える強度が要求される。

ワークポジショニングシステムは、墜落を予防するかまたは墜落を止められる適切なバックアップシステムがセットされている場合にのみ使用すべきである。2本目のロープでバックアップシステムを作る場合、クライマーはそのロープにも連結しなければならない。状況によってバックアップシステムの使用ができない場合、ワークポジショニングシステムの失敗を避けるため次の点に留意すること。

 

- トレーニングをする

- 適切な機器を選択する

- 信頼できるアンカーポイントを選択する

- アーボリスト業界とHSEのガイダンスに従う

- 道具を正しく使う

 

2本目のロープをセットする方がリスクを増やしてしまうと判断した場合、安全確保の適切な対策を講じれば、ロープアクセスにもワークポジショニングにも、1本のロープのみで作業する事ができる。

 

HSEも、樹形や樹種によって対応が変わるアーボリスト技術においては、2本のクライミングロープの使用や2つの独立したアンカーをセットする事が必ずしも安全ではないと認識してきました。私たちは業界全体で、『グッド クライミング プラクティス ガイド』を見直し改訂しました。旧版を基に、下記のような重要ポイントの説明をより具体的に解説しました。

 

- 補助アンカーを使って過重分散をする場合

- システム破綻のリスクを最小限に抑えるためのワークポジショニングの作り方

 

ロープワーク用アンカーをどこに取るかの選択は、決して簡単に議論したり実践したり出来るものではありません。クライマーはアンカーを選ぶに当たって、樹木の生物的特性および形状による物理的特性、太さ、健康状態、等ととともに、気象状況(雨、風、雪)また以前にアンカーとして使ったかどうかということまで考慮する必要があります。クライマーとアンカーの距離は腕を伸ばした程度の場合もありますが、通常は20〜30mも離れる場合がほとんどなので、困難でリスクの高い仕事になります。アンカーを離れた場所から安全にセッティングするためには、木の種類と健康に関する知識、クライミングシステムの知識、リスクアセスメント、仕事内容の理解、スローラインの技術が必要になります。木の枝の本当の強さを知ることはできませんが、経験と継続したリスクアセスメントにより、いくつかの安全なアンカーを選び出すことができます。

 

ツリーワーカーのシステムは、メインロープとランヤードで構成されています。メインロープを使って作業地点に上り、ランヤードを取り付けて体を安定させてから実際の作業をします。場合によっては3本目のロープやハイラインなどより多くのロープを使う必要があるかもしれませんが、これは別の場所で話します。

 

法面作業では、アンカーを設置する時に、鋼鉄やコンクリートの見えない劣化、硬い地面、または軟弱な地面への設置、硬く鋭いエッジの存在などツリーワークとはまったく異なる考慮をする必要が出てきます。また、斜面中間ではランヤードを取り付ける場所もありません。

同様にビルメンテナンスや風力発電機など垂直にロープを上下する作業についても同じことが言えます。

どちらの作業も主に上下だけの動きでランヤードはほとんど使わず、メインロープとバックアップロープを設置し、それぞれのロープを2つの別の場所に連結する仕様のフォールアレストハーネスを使用することが求められています。

 

典型的なフォールアレストハーネス(EN361)には、中央と腹部、および背中にタイインポイントがあります。これは上下の動きには適していますが、横方向の動きは制限されます。EN361のフォールアレストハーネスは多くの種類があり、そのうち数種類をODSKで取り扱っています。この記事では、EN361とEN358(ワークポジショニングハーネス)の両方に適合するハーネスについて紹介します。ブリッジスタイルのタイインポイントはツリーワークには不可欠であるのに、通常のフォールアレストハーネスでは見落とされているからです。

 

ワークポジショニングハーネス(EN358)は、他のハーネスに比べ体を動かす自由度が大幅に増えています。私の意見では、快適な座りこみ、ポジショニング、移動ができます。2つのブリッジが付いたオプションを備えたハーネスや、チェストハーネスを付けてワークポジショニングハーネスに変えられるものもあります。後者はEN361認証を取得しています。

 

日本でも厚生労働省が法律を改正し、2022年からすべてのロープ高所作業者に対しフォールアレストハーネスとバックアップシステム使用の義務化が定められています。先にイギリスにおける高所作業の法律とそれに対するアーボリスト業界の反応を紹介しました。様々に形が違う樹木に対し常に同じバックアップシステムを使わなければならなくなればどのツリークライマーにとっても作業が困難になるのは明らかです。この方法が実行困難であると厚生労働省に積極的にアピールしなければこの法律に従わざるを得なくなってしまいます。

とりあえずワークポジショニングとフォールアレストのどちらにも対応するハーネスを購入すれば無駄を省くことができるでしょう。

 

次に紹介する各ハーネスは、ツリークライミング、クレーン作業、法面作業、ビルメンテナンス、風力発電機などどの高所作業にも対応します。これらはすべてODSKにてご注文できます。

 

 

各種ハーネス

 

ペツル『セコイア』

業界のリーダー ペツルが提供する軽量でスマートなデザインのハーネス。専用軽量チェストハーネスの併用で、アセンダーを使っての登高が出来ますが、フォールアレスト機能は認証されていません。大きな金色のロアーⅮリングには、1本または2本のブリッジが取付け可能で2本目のブリッジはバックアップ用タイインポイントとして使用可能です。このロアーⅮリングが取り付けられたウェビングの長さ調整により重心の微調整が可能です。(ここに紹介する他のハーネスもすべてこの微調整ができます。)ツールを掛ける多数のウェビングループ、ツールハンガー用スロット、およびファーストエイドキット取付け用ラバーバンドが付いています。

カンプ『ツリーアクセス エボ』

カンプには、フォールアレストハーネスとその周辺機材を製造してきた長い歴史があります。これはアーボリスト用ハーネスとして作られた最初の製品で、フォールアレストハーネスの機能とともに多くのツールラックが付けられています。

エーデルリッド『ツリーコア』

エーデルリッドはドイツにあるロッククライミングロープ、高所作業用ロープ、ハードウェア、ハーネスのメーカーで、高所活動の分野で長い歴史を持ち、アーボリストハーネスにおいては一貫して独自の設計哲学を推進してきました。伝説的な『ツリーマジック』は現在『ツリーコア』に引き継がれ、フォールアレストハーネスとしても変換可能です。多くのツールラック、独特ののブリッジ調整システムを持っています。サイドⅮリングもユニークで、取り付け位置が前後に2か所あり選べるようになっています。この位置調整はハーネス設計でよく見落とされる所で、快適なハーネスであっても、この位置が悪いとランヤードを使った時に腰が痛くなってしまいます。独特な機能で、これだけに注目しても価値があります。

シマルグ『ファイヤー』『ジェミニ』

ODSKが新たに取り扱う興味深いデザインのハーネスです。今年後半にはフォールアレストハーネスの機能も追加し、さらに快適なデザインになることを期待しています。女性用と男性用の2種類があります。女性用には股の部分に追加のウェビングがありますが、男性にも快適に使用できます。