No.26 安全なアンカー作り

キーワード - 

1.    強度

2.    リスクアセスメント

3.    目視検査

4.    力学

5.    アンカーセッティングに関する

  注意点とアーボリスト用語

6.    木のマッピング

7.    アクセス

8.    ワークポジショニング

まず最初に問いたいのは: そもそもなぜ登るのかということですが!

 

僕が思うにクライマーには大きく分けて二つのタイプがあると思います。

 

最初のタイプは非常に実務的なタイプのクライマーで、彼らは敢えて危険を冒さず可能な限り地上で作業を済ませ、また可能なかぎり機械を使おうとするタイプです。もちろん安全に対するアプローチに関して反対はしませんが、この考え方では長期的にはアーボリストとして成長する妨げになると思います。

2番目のタイプは僕が目指そうとしているタイプですが、自分の持てる限りの技術を使って木に登り、さらに深く木に対する知識を深めようというクライマーです。彼らの目的は単に枝を切り落としたりロープをセットしたりということに止まりません。

 

木は非常に複雑でシステマティックにまとめるのが困難なので、この記事をまとめるのには大変苦労しました。張力と圧縮力、常に影響を及ぼしている重力、樹種による性格の違い、木の成長から衰退にかけての各段階における性質の変化等々。そのような木に対して登ったりスローラインを使ってアンカーをセットするわけです。しっかり腰を据えてシステマティックにアプローチしなければならないのです。がんばって取り組みましょう。

 

僕は安全で実用的かつ理解しやすいテクニックを求めています。それによってどちらのタイプのクライマーであっても自由に効率が良く自分が安心して使えるテクニックを求められるようなものです。この記事によって安全なアンカーを作るための一般的なガイドラインとなるようなアイデアが伝えられればと思います。それによってみなさんが各自のツリーワークで活用してもらえれば幸いです。

1. 強度

 

物の強度というのはデザインと材質によって決まります。例えばカラビナのボディーに表示されている強度は、特定のポイントと方向に掛けられた荷重を測定して証明されたものが表示されていますので、そのポイントがズレてしまえば書かれた強度ではなくなってしまいます。ロープについても同じで、たとえ引っ張る方向が理想的であってもそれに取り付けられる器具が変われば強度は劇的に変わります。ODSKでは16ストランド、ダブルブレイド、セミスタティックカーンマントルの3種類のロープに同じカム式アッセンダーを付けて同じだけの衝撃荷重を掛けてテストしたのですが、結果はそれぞれのロープで大きく異なりました。

個々の器具の強度が十分にあるというだけでは安全なシステムは作り出せません。器具の選択と組み立て方が適切であった時に初めて安全なシステムは作り出せるのです。

木にアンカーを作る時にも同じように考えなければなりません。木の性質や形をよく観察した上で荷重のかかる方向を考えてアンカーを選ぶことが大切です。当然悪い危険なセッティングがあるわけで主にトレーニング不足から来るのですが、それはきちんとしたリスクアセスメントを心がければ解決します。

 

 

2. リスクアセスメント

 

リスクアセスメントを継続することほど大切なことはありません。初心者であろうがエキスパートであろうが、そのテクニックはリスクアセスメントの出来不出来の上にかかってきます。リスクアセスメントは僕たちを災いから守る盾のようなものです。

先入観を持たず客観的に危険を認知して初めてそれを防ぐための対策が立てられるのです。きちんとリスクアセスメントができれば問題の半分は解決できたと言えます。あとの半分は危険をいかに減らすかということです。

実用的なリスクアセスメントのために『リスク・スクエア』がありますので使い方を学んで作業現場で使ってみてください。(ショップホームページにリンク)

 

 

                           

 

 

さらに木の上の方まで観察を続けます。葉の茂り具合、昆虫が群がっているかどうか、枯れているところ、傷んでいるところがないか、分かりにくい場合は双眼鏡を使って観察していきます。強風によるダメージや落雷といった過去の古傷もよく観察すればわかってきます。

 

リスクアセスメントはアクセスを始めてからも引き続きおこないます。地面からだけでは分からないことも見えてくるからです。何故なら木は3次元的に広がっているからです。そして仲間の意見を鵜呑みにしないこと。木の上にいる間はずっと自分に『大丈夫だろうか?』と言い聞かせてチェックを怠らないことです。自分の命は自分の判断にかかっているのです。

 

 

4. 力 学 

 

テコを使えば小さな子供でも大男を負かす力を発揮します。

枝にもテコの力がかかっています。あるものは垂直方向に、あるものは水平方向に伸び、

その間のさまざまな角度に枝は伸びていてそれらが主幹に繋がっているのですが、繊維を

何層にも重ねて成長し支えているのです。その成長は続いており支えが必要な部分が必要

に応じて組織を補充していきます。キノコ、バクテリア、昆虫、そして哺乳類たちが木を

すみかにして生活していくのですが、それによって弱くなった部分を補いながら成長して

いくためその構造は非常に複雑になります。水の吸収と排出を繰り返します。太陽の光を

エネルギーとして光合成を行い糖分を作り出します。木は自分の置かれた環境に応じて成

長し、強風や豪雨にも耐えられる体を作り上げていきます。環境に敏感に反応しながら成長してきたため木には一本一本が特徴のある構造を持っています。環境に順応して成長すれば大型の台風にも耐えられるほどの体を作ることもできます。そして柔軟性と共に強靭さを兼ね備えます。2016年2月、僕の住む長野県の扉温泉では例年にない湿った重い雪が降り、それによって数百本もの赤松やカラマツが倒れてしまいました。それらの木はこれほどの雪の重さには慣れておらず、支えられずにただ倒れる他なかったのです。イラストの子供のように普段より少しだけ増えた力がテコの力によって木を倒すだけの力になってしまうのです。

ツリークライマーには、湿った雪と同じように木を折ってしまうのか、またはロープを木の状態に応じて仕掛けることで弱点を補っていくのかという二つの選択があります。木にはその成長の歴史が刻まれています。強いライン(圧縮の力が掛かった部分)と弱いライン(へし折る力が掛かった部分)が地図を見るように読み取ることができれば、それに応じてロープをセットしていくことが出来るのです。

5. アンカーセッティングに関する注意点とアーボリスト用語

 

アンカーを選ぶときに考慮しなければならない注意点

・木の種類

・健康状態

・年齢(古い木ほど粘りがなくなるが成長して強度は増えている。)

・幹や枝の長さ

・幹や枝の傾き具合(縦に圧縮する力/横に引き倒す力)

・その部分に掛ける力

​テクニックとシステムを説明するアーボリスト用語

リスクアセスメントは木から少し離れて周りの状況を確認することから始めます。近くにあるものすべてが作業に大きく影響を与えるからです。次に木のてっぺんにある枝の状態を確認します。枯れ枝が目立ち始めていれば根のダメージが考えられます。

 

次に木に近づいて根と幹を観察します。地面の盛り上がりは根の膨らみ表します。菌類に侵されてキノコが根元や幹の中程まで繁殖しているかもしれません。キノコの見極めは非常に重要です。なぜならキノコは木の種類によって柔らかくなってしまったり、脆く崩れやすくなってしまったりと様々な違った影響が出てくるからです。

3. 木の目視検査 

 トップアンカー

A =  トップアンカー/アンカー

B =  リダイレクト/荷重分散アンカー

A -クライマー =  ロープのワーキングエンド

        (クライマーから下の部分はスタンディングエンドと云う)

 ボトムアンカー 

A =        エイペックス

B1 =        リダイレクト/Compressive Re-direct

B2 =        リダイレクト/Load Sharing Anchor

C =        ボトムアンカー

A - C =        アンカーレッグ

C - クライマー =    ワーキングエンド

         (クライマーから下の部分はスタンディングエンド)

アンカー

アンカーはクライミングシステムが木と連結する部分です。トップアンカーは通常アタッチメントポイントが一箇所でボトムアンカーは複数のアタッチメントポイントを持ちます。トップアンカーはロープが独立した状態(一箇所のアタッチメントポイント)でボトムアンカーは独立していない状態(複数のアタッチメントポイント)とも言うことができます。どちらの状態でもシステムの一番高い場所(エイペックス)は枝の角度と長さ(テコ)がシステム全体の強度や完成度に直接影響を及ぼすため、細心の注意を持って選ぶ必要があります。

 

 

6.  木のマッピング 

 

アンカーの場所=木の種類+健康状態+年齢+枝の角度+枝の根元からアンカーまでの長さ

荷重=枝の角度+ロープの角度+枝の根元からアンカーまでの長さ+枝の重量

 

 

タイプAアンカー

クライマーが長い枝の先にアンカーを作った場合でも地面からアンカーに至る角度が垂直に近くて幹からさほど離れていなければ、荷重は木を押し付ける圧縮の力として掛かる。この状態のアンカーは最も荷重に対して強いタイプAアンカーと呼びます。

タイプCアンカー

タイプAアンカーとほとんど同じに見えますがそうではありません。アンカーポイントは主幹から離れていて枝の付け根が水平方向に伸びているためそこに枝をへし折ろうとする力が掛かっています。

タイプAとタイプCの中間がタイプBということになります。

 

A = 角度が 0 - 20 °

SRT (ステイショナリー)または(DdRT)のためのトップアンカーポイント。ワーキングエンドはボトムまたはトップで固定。

枝が 20° 方向に傾けばその分テコの長さを短めにする方が良い。

 

B = 角度が 20 - 45°

エイペックス+圧縮の力が掛かるアンカーレッグ

SRTまたはDdRTのためのフローティングアンカー。ワーキングエンドはボトムで固定。荷重が枝を圧縮する方向に掛かるようにロープをセットする。

 

C = 角度が 45 - 90°

より高い位置にエイペックスかトップアンカーをセットした後、必要な場所でリダイレクトをしてそこでSRTまたはDdRTをセットする。 

 

アンカーの場所=木の種類+健康状態+年齢+枝の角度+枝の根元からアンカーまでの長さ

荷重=枝の角度+ロープの角度+枝の根元からアンカーまでの長さ+枝の重量

7.  アクセス

 

現場責任者、クライマー双方で木の安全性を確認できたらアクセスに移ります。いくつかの手段があります。木が最終的に伐採されるならスパーとランヤードを使って作業地点まで登るのが楽でしょう。伐採せず残すのならスパーは木を傷つけるので他の方法、例えば梯子を使って登れるだけ登り、そこからALTを使ってさらに上に行く方法、または梯子が一番低い枝まで届かない時はスローラインを使ってロープをセットします。スパーや梯子やALTと比べるとスローラインはより高度な技を必要とする方法できちんと責任を持って使う必要があります。

 

アクセスの目的は様々なテクニックを使って以下の条件を満たす最適なワーキングアンカーを作ることになります。

  • 枝にかかる圧縮の力と張力にうまく処理するもの

  • リムウォーク等で足を踏み外して誤って起こした衝撃に耐えられる

  • レスキュー時に掛かる二人分の荷重に耐えられる

 

僕が伝えたいのはクライマーがより木に寄り添うようなシステムです。クライマーの中にはスローラインのセットにビッグショット等のランチャーを使う人もいます。セットが楽で時間の節約になる反面安全面では不利なところもあります。大抵スローラインは樹冠全体を覆うように掛かり幹から離れてしまいます。でも僕はできるだけ幹の近くにロープをセットしてアクセス時に再度綿密なリスクアセスメントをすることを推奨します。

 

スローラインアクセス・フローチャート 

もし下から見ることができない枝にスローラインを投げてアンカーポイントを作ったとしたら、きちんとリスクアセスメントができないため事故の起こる確率を高くしてしまいます。仕掛けたロープに二人でぶら下がっただけでは十分な安全確認ができたとは言えません。何故なら確認した時点では大丈夫でもアクセスしていくうちに発生する小さな荷重が重なることで事故に至る可能性があるからです。

 

 

ロープは二人以上の人間が地上で様々な方向から目で確認できるようにセットすること

8.  ワークポジショニング: タイプ ‘A’ トップアンカーシステム 

おにぎりアンカー/リング&リングアンカー

幾つかの理由からアンカーシステムには離れた場所から取り外しができて摩擦が少ないものが求められます。数々のデザインのものがありますが、基本的には大きなリング(またはプーリー)と小さいリング(またはシンブル)の組み合わせになっています。回収用ボールをロープのワーキングエンドに取り付けるとボールは大きいリングをすり抜けて小さいリングで引っ掛かってアンカーシステムを木から引き離す仕組みです。 おにぎりアンカーにすると大きなリングでもノットブロックがきちんと効くサイズなのでDdRTとSRTの切り替えが簡単にできるので非常に便利です。クライミングにもアンカーテクニックにもより広い選択肢を与えてくれます。

DdRT (ダブルドロープテクニック) 

このイラストはおにぎりアンカーを使ったDdRTの基本的なセッティングを表示しています。このアンカーはタイプA で木を引き倒す力が少なく荷重はほとんど垂直に圧縮する力になっているため非常に安全なアンカーと云えます。ロープは2つのアルミリングを通っているため摩擦が少なくどの方向にもスムーズに動くことができます。 離れた場所からの回収も可能です。

マルチアンカーの使い方には幾つかありますが、

そのうちの一つはトップアンカーでの荷重分散

です。二つのアンカーが作る角度によって掛かる

荷重が変わってきますから注意してセットしなけ

ればなりません。

マルチアンカーを使った荷重分散 

SRT (ステイショナリー(動かない)ロープテクニック)

                     シネットチェーン(デイジーチェーン)     アルパインバタフライノットによるブロック  

 

 クライマーはアルパインバタフライノットでロープをリングにブロックしDdRTをSRTシステムに変換できます。ノットが通り抜けないようなリングの大きさが必要です。(リングによっては大き過ぎてノットが抜けてしまいます。)アルパインバタフライのようなミッドラインノット(エンドではなくロープの途中に作るノット)はワーキングエンドの長さを必要に応じて変えられるので非常に便利です。ODSKではこのノットブロックの強度テストを4種類のロープを使って行いました。このテストで明らかだったことは、SRTにするとロープの強度は実際にDdRTの時の半分だということです。だからと言ってSRTはロープを弱くすると単純に括ってしまわず、システムの構築によって強度が変わってくるということを理解する必要があります。ノットブロックにはショックアブソーバーとしての役割もあります。なぜなら荷重が掛かってくるとノットは締められることによって動くからです。この働きはDdRTのセッッティングにはないことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

SRTはロープが動かないので色々な仕掛け方ができます。ノットブロックを使うとそれより下方に伸びるワーキングエンドの長さを自由に調整することができ、必要に応じて下方のより強度がある枝にアンカーを取ることもできます。風が強くて枝の揺れがひどいような時にはこの方法で下方の枝にブレーシングして揺れを抑えることができます。

荷重分散

 

また他の状況ではノットブロックを解除して完全に荷重分散させることもできます。アンカーがタイプBやタイプCの時にはこの方法でアンカーをへし折ろうとする荷重を圧縮する荷重に変えることができます。このセッティングは多少ややこしくて、覚えたてのクライマーが必要のない時にもこのセッティングを使いたがる傾向もありますが、いざという時に役立つテクニックです。

このテクニックで気をつけなければならないのはエイペックスにクライマーの体重の2倍の荷重が掛かってくることです。気をつけないと上のイラストの子供のように大男を持ち上げようとしてシーソーを折ってしまうことになります。

ブレーシングアンカー

結  論

人口の建造物と違って木は生き物です。だからその強度を把握するのは常にグレイゾーンを伴います。クライマーは木とそれに関わる様々な知識を増やし、それを有機的に実際のクライミングに取り入れ訓練をすることでそのグレイゾーンに対応していかなければなりません。そうした経験が増えれば増えるほどアーボリストとして自分の価値も高まり、アーボリカルチャーの世界も広がり充実していくことと信じています。