No25. ゴーストテクニック

ここでポールさんが紹介するのは上級者向けのテクニックです。十分な知識と経験を持ったクライマーの皆さんには参考にしていただけると思いますが、大きなリスクが伴いますので安易に真似をされないようお願いいたします。

はじめに:アーボリストの使う略語がだいぶ分かりにくくなってきました。今後新しいシステムが登場してさらに略語が増える前に少し整理しておきたいと思います。

アーボリスト略語のクイックガイダンス

DdRT=  Doubled Rope Technique(ロープを2つ折りにして使うテクニック)
2016年2月現在において最も一般的なクライミングシステム。シンプルで優雅なシステムだが仕事が複雑になってくるとトラブルを生み出す重要な欠点(クライマーの動きに応じて常にロープが動いている)がある。1本のロープを枝やリングやプーリーに通して2つ折り(Doubled)にすることからDdRTと呼ばれるようになった。

DRT=  Double Rope Technique(2本のロープを使うテクニック)
DdRTと混同して使われるが、本来は2本のロープを使うテクニック。

SRT=  Single Rope Technique(1本ロープ テクニック)
1本のロープを垂らして使うシステム。もともとケービング(洞窟探検)で使われており、アンカーから垂れ下がったロープをクライマーが降りてアンカーから離れていく。

SRT=  Stationary Rope Technique(ステーショナリー(静止した) ロープ テクニック)
同じく ”SRT” だが、最近ではステーショナリーという意味で使われることもある。DdRTも実際には1本のロープしか使わないのでロープが動くDdRTに対しロープが動かないSRTという特徴をより明確に表してしていると言える。ロープが動かないSRTには、より簡単で洗練されたアクセス/ワークポジショニングテクニックが生み出される可能性がある。

S-DdRT=  Stationary Doubled Rope Technique(2つ折りのロープを静止状態で使うテクニック)
1) 2本の細いロープをまとめて一つのビレイデバイスに通すシステム。

2) 2本の普通の太さのロープを連結して2つ折りに掛け、垂れ下がった2つのロープエンドにそれぞれビレイデバイスを取り付けるシステム。

D…?=  DはDual(2重)の意味。D stands for Dual.
独立した2本のロープにそれぞれビレイデバイスを取り付けるシステム。

D-SRT= 2本のステーショナリーロープを使ったテクニック
D-DdRT= 2つのDdRTシステムを使ったテクニック


D-SRT


 2015年11月に開催したウッデンハンド特殊伐採ワークショップにアメリカ東海岸から招いたエリック ウィップルさんは D-SRT(2本のステーショナリーロープを使ったテクニック)を紹介してくれました。エリックさんはSRTに非常に精通したクライマーです。『ゴーストテクニック』と名付けられたSRTの発展系テクニックD-SRTによって彼は幽霊が壁を通り抜けるように立ちはだかる大枝を通り抜ける技を見せてくれました。枝先へ移動する時、自分の体重を2つのシステムのうちのどちらか1つに移動させることでもう1つのシステムがフリーになり新しいアンカーやリダイレクトを自由にセットすることができるのです。新しいアンカーをセットする間、自分の体はもう1つのシステムによってしっかり確保されているのです。2本のロープを束ねて1つのシステムのように使うこともできれば離れたアンカーにリダイレクトして2つのシステムを分離して使うこともできます。2つのシステムはすぐれたビレイセットによって常にコントロールできるようになっています。このセットの構成は2つのコンパクトブルドッグボーンそれぞれにロックエキゾチカのナノスイベルが付けられ、さらにデルタ型スクリューコネクターによってロックエキゾチカLサイズスイベルに取り付けられてハーネスのブリッジに連結されています。これによって各システムのねじれが吸収されセット全体がねじられることなく体をどの方向にも向けることができるのです。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

https://vimeo.com/147971746


1 - コンパクトブルドッグボーン Gordon Svedberg Compact Bulldog Bone
2 - ロックエキゾチカ ナノスイベル Rock Exotica Nano Swivel
3 - デルタ型コネクター Triangle Maillon
4 - ロックエキゾチカ Lサイズスイベル Rock Exotica Large Round Rotator 


 エリックさんはこのシステムで巨大なシイノキから隣のトネリコに移りさらにその隣のヒノキに移って下りてきました。水平距離30m、高さ25mほどの空間をコントロールしながら安全に移動しました。
D-SRTの大きな利点は作業中にランヤードを使う必要がなく(すでに2つのシステムにより確保されているため)、ランヤードが無いことによって作業中に事故が起きた場合グランドワーカーが地上のトランクアンカーでロープをリリースすればクライマーを下ろすことが可能になったことです。
僕の今の仕事は100%特伐なのでトランクアンカーを使っていると切った枝がロープにからまる危険性があります。それで危険性の少ないD-SRTのクラウンアンカーについて考えたことを書いてみます。
『言うは易し』ですが一体どうやったらエリックさんのゴーストテクニックとクラウンアンカーを融合させることができるだろうか。僕は2つのD-SRTシステムのアイデアとノットブロッキングクラウンアンカーを組み合わせれば、エリックさんのゴーストシステムの便利さに近づけるのではないかと考えました。


 

システム

システム1
2本の細いロープを重ねて使うシステム。2本のロープを合わせて1つのビレイシステムに通している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

システム2
通常の太さのロープを2本セットするシステム。2つのビレイシステムをそれぞれのロープに通す。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

システム1は利点はあっても欠点は少ないと思います。このシステムではステーショナリーシステムにも拘らずいつでもアンカーを回収することができます。アンカー部分で必要な強度を得るのに8〜8.7mm程度のロープが必要です。またロープと枝との擦れによる磨耗も考慮しなければなりません。もう一つの課題はロープが片側に滑りだしクライマーが落下する危険性です。それを防ぐためには器具の改良が必要になります。10mmロープが取り付けられ、なおかつ2つの独立したカムを持つことで不意の落下を防ぐような器具が適していると思うのですが。

システム2は非常に異なった技術的特性を持っています。まず通常のクライミングロープを使用するため1つのビレイシステムのみを使うときの簡便性は失われますが、状況に応じて2つのシステムを独立して使うことができます。ということはアンカーを少しアレンジするだけで簡単にS-DdRTからD-SRTに切り替えられるようになります。離れた場所からアンカーを回収するにはS-DdRTで、エリックさんのゴーストテクニックを使いたい時はD-SRTに切り替えます。

 
アンカー Anchor

         


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左の図はアルパインバタフライとデイジーチェーンによってロープをリングでブロックして作ったSRTアンカーです。リングは28mのDMMアンカーリングです。小径リングを使えば安全にノットでブロックできます。ロープのワーキングエンドを自分の手元にキープできるので遠隔でアンカーの回収ができます。

 右の図はS-DdRTのアンカーでロープはリングを通して動くようになっています。

 作業性を高める簡単なテクニックに1本のDdRTロープを真ん中から切って2本にする方法があります。1本はクライミングロープとして使いもう1本は下記のような色々な用途に使い分けます。

ⅰ) 枝が混んでクラウンアンカーがセットしにくい状況でトランクアンカーへ接続するためのアンカーレッグとして Anchor leg 
ⅱ) レスキューラインとして
ⅲ) トラバースラインとして
ⅳ) D-SRTとして

 1本の長いロープを2本に分けることにより取り回しの面倒な長いロープエンドが短くなり、その部分をより効果的に使えるわけです。2つのロープはカラビナやコネクターのような金属器具、またはノットにより連結できます。またはアンカーリングとノットブロックを一緒に使った連結も可能です。2本目のロープは離れた場所にアンカーを作りそこを通すこともできますし、おにぎりアンカー(後述)への連結もできます。

 


コンパクトブルドッグボーン  Compact Bulldog Bone

 

 

 

 

 

 

 

A-トップアーム  Top Arm

B-ボトムアーム  Bottom Arm

C-チェストハーネスアタッチメントホール  Chest Harness  Attachment Hole
D-チェストハーネスアタッチメントDリング Chest Harness Attachment D-Ring
E-オリジナルカラビナアタッチメント Original Karabiner Attachment
F-ナノスイベル(Eの代わりに取り付け)Rock Exotica Nano Swivel  Modification

G1-トップゲート(ボラードがG1のリンクにはめられる) Top Gate (bollard sits between G-1 Links)

G2-ボトムゲート Bottom Gate

H-ボラード  Bollard

 

コンパクトブルドッグボーンには3つの直径の違うボラードが取り替えられます。SサイズとMサイズは付属品、Lサイズはオプションです。サイドリンク取り替え用に割りピンが付いています。ボラードはグリップを動かしてトップアーム(G1)をリリースすれば交換できます。ロープ径やロープの性格、クライマーの体重、またはクライマーの望むクライミングスタイルに応じてボラード径を選択します。トップアーム両端のゴムは握りやすさに加えてボトムアームとの干渉を防ぎますからゴムは絶対に取らないでください。また取れて失くしてしまったら販売店に送り返して取り付けてもらってください。ロープをセットして体重を掛けたらトップアーム(G1)をゆっくり下方に引いていくと滑り出し、手を離すとストップします。手を離しても下に滑っていくようならボラード(H)を一つ上のサイズにし、またトップアームをしっかり引いても滑りにくいようなら一つ下のサイズに交換する必要があります。 ホール(C)とDリング(D)はSRT時にチェストハーネスと連結しブルドッグボーンを引き上げるためのコネクターを掛けるポイントです。ただしDdRTの時にワーキングエンドをここに掛けてはいけません。

 


おにぎりアンカー Onigiri Anchor


 SRTのクラウンアンカーではノットブロッキングが重要なテクニックです。テューフェルバーガーのプーリーセーバーに付いているプーリーの代わりに28mmアンカーリングを付け替えれば、より柔軟な技が使えるようになります。 ところで ”おにぎり” と呼んでいるのはプーリーセーバーの三角形の輪がおにぎりの形に似ているからです。

 

   


 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

食べ物ついでにもう一つ、僕は松本でプーリーセーバー工房を見つけてしまいました。確かテューフェルバーガーはオーストリアにあったと思うんだけど。(笑)