No.11 様々なクライミングシステム
注意)ここに書かれたクライミングシステムはツリークライミングの基礎を学ばずに独学で試みると大きなリスクがあります。クライミング未経験の方は是非クライミングの基礎講座を学んでマスターしてからチャレンジして下さい。
まずクライミングシステムは、下に書いた条件を満たすものが望ましいと思います。
1.樹木(樹皮)を痛めないシステム
2.三次元的に自由に動けるシステム
3.墜落の危険性が出来るだけ少ないもの
4.人間工学にかなったシステム(疲れにくいシステム)
5.いかなる木(形/強度/高さ)にも適用できるシステム
6.出来るだけ作業の邪魔にならないシステム
2:1システム (DdRT)
色々な国で色々なクライミングシステムが開発され、その教則本が書かれてきました。
現在ツリーワークにおけるワークポジショニングでは2:1システムを使うのが標準になっています。
一般的にはDdRTと呼ばれています。
DdRTのDdは『Doubled』で、ロープがアンカーの枝で折り返して2重に掛けられているという意味です。
DdRTを使えば2倍力(2:1)になるため自分の体を半分の力で引き上げられます。
まず2:1システムを5種類紹介します。
1) 3ノットシステム (トラディッショナルシステム+ボディースラスティング

2) スプリットテイル+ボディースラスティング

3) スプリットテイル+フットアッセンダー

4) ヒッチクライマーシステム+フットアッセンダー

5) ロックジャック+フットアッセンダー

1:1システム (SRT)
2:1システムはセルフビレーをちゃんと取れば、樹上のいかなる場所にも安全に移動することを可能にします。
シンプルで安全性の高いシステムで、いろいろな道具を組み合わせやすく様々に応用できます。
それに対し高所作業やケービングで使われてきた1:1システムはシングルロープテクニック(SRT)と呼ばれていますが、そこで使われる『フロッグウォーク』『ロープウォーク』というテクニックは早く楽に登れるということから世界中の多くのアーボリストたちが使うようになってきました。
しかしこのシステムの安全性について多くの人々がいまだに懐疑的です。
柔軟性がある反面セッティングに気をつかう箇所が多くリスクが大きいという訳です。
ロープアクセスの最も古典的な方法は『フットロック』と呼ばれるテクニックでしょう。
道具はあまり必要ありませんし熟練していればかなり早く登る事が出来ます。
フットロックはISAの中では『生理学的に肉体的負担の大きすぎるテクニックだ』いや『神聖なテクニックだ』という2つの意見に別れているようです。

つい最近になって1:1システムにおいて上りも下りも付け替え不要という道具が開発されてきました。『シングルロープワークポジショニング』と呼ばれるこのテクニックは未だ確かな方法が確立されていないにもかかわらず、世界中で多くの人々に関心が持たれています。
今まで述べたテクニックは適切に使われればどれも有効な技術だと思います。
現在、日本にはツリーワークに関する安全基準がありません。
世界中からこれだけの技術とツールが導入され発展している時なので今は過渡期だと思います。
ツリーアクセス技術を学んでいくにつれて、僕たちのニーズに合わせて安全基準や道具も変わっていく事でしょう。
*VTIO(オーストラリアの林業団体)は「ツリーワークは本質的に危険な作業であるにもかかわらず、作業毎に状況があまりにも大きく異なるために共通に使える総合的な規格を設定する事が出来ないでいる。それぞれのクライマーの技術や経験が違う分だけいろいろな方法が許されるべきではないか。」と述べています。
僕が最近使い始めたのは、1:1システム、2:1システム、さらに3:1システムの3つを切り替えて使えるシステムです。
今ではどのシステムでもうまく働く道具があるので、それぞれを独立して使うのではなく一緒に使っても良いのではないかと考えた訳です。
それで僕はSRT、DdRT、SRWP(シングルロープ・ワークポジショニング)等といった固定的イメージのある名前をあえて使わないでみました。(1:1、2:1、3:1というのは等倍、2倍、3倍というシステムの機械的倍率です。)
2:1システムが1:1システムより優れた点は、
タイインポイントを移動しやすい
変則ランヤード(2本のランヤードを掛け替えながら登る)スタイルで登れる事
リムウォークから復帰しやすい
ロープとフリクションセーバーの回収がしやすい
1:1システムが2:1システムより優れた点は、
長い距離を早く登れる
リディレクトが楽にできる
リディレクトで複数の枝にロープを掛けることでより大きな荷重に耐えられる
フリクションヒッチにかかる摩擦が常に一定であるため移動できる範囲が大きくなる
それぞれのシステムの利点を統合して使えればツリーワークの強い武器になると僕は信じるので紹介してみたいと思います。
ツール
新システムの核になるのがリング&リングフリクションセーバーです。
ラージリングのサイズが若干小さめのものにすれば、スプライスのあるエンド(ワーキングエンド)部分にノットを結んでラージリングで止めれば1:1システムに変ります。
一般的なラージリング(40mm)だと大き過ぎてノットが止まらない事があるので気をつけて下さい。
新システムのフリクションセーバーはラージリングが34mmスモールリングが28mmにしてあります。


3つのクライミングギア
ユニセンダー
ユニセンダーは1:1ワークポジショニング用に作られた最初のツールです。スムーズなアルミのプレートは体重が掛かっていてもショックアブソーバーのように滑らかに動き、落下を止めるデザインになっています。


ロー プレンチ
1:1システムとフリクションヒッチを融合させる画期的なアイデアを初めて提供したロープレンチ。ヒッチコードには太さ8mmか10mm、長さ70cm程度の物を使います。下の写真に使われているヒッチクライマープーリーは本来のヒッチを押し上げてフェアリードをする機能に加え3つ穴プレートの機能も持ち合わせているので、いろいろなテクニックに応用できます。


ロープレンチ·テザー
硬く作られたテザーがプーリーに直接スプライスされるかまたは縫い付けられていれば、ロープレンチは遊びが無くヒッチとの距離を保ってくれます。大きなカラビナを使うと遊びが大きすぎてロープレンチはヒッチの頭に当ってしまいます。そうするとクライマーが滑り落ちる可能性も出てきます。



ヒッチハイカー
ロープレンチに続いて登場した新しい1:1ツールで、現時点では最良の1:1ツールだと思います。樹上で求められる滑らかな操作性をヒッチハイカーはクリアしています。


スプライスされたクライミングロープ
スプライスされたクライミングロープを使えば2:1システムがすっきりとまとまります。さらにフリクションセーバー回収ボールの取り付けも楽です。


その他の補助器具
1:1 システムを使ったクライミングは適切にセットアップすれば早く、体に負担を掛けずに上ることができます。

フットロックランナーはシングルのロープにもツインのロープにも付けることができます。


フットアッセンダーは1:1、2:1、3:1どのシステムにも大きな補助となる、必要不可欠なツールです。

ランヤードはクライミングロープの掛け替え時やワークポジショニングに必要不可欠なツールです。

ヘルメット、作業用グローブ、セーフティーグラス

衝撃吸収について
トランクアンカーを使えばロープの伸縮がより多く、衝撃吸収という点では有利でしょう。ただし根元でロープエンドが固定されてしまうので、システム間の切り替えは出来なくなります。
ロープにノットを作ってリング&リングフリクションセーバーで止める方法は2つの点に留意する必要があります。まず衝撃吸収材となるロープが短くなること、そしてロープに荷重が掛かっていない状態から急に衝撃がかかった場合ノットが解けてリングをすり抜ける可能性があることです。(バタフライノットにカラビナを付けてロープのワーキングエンド側に掛けておけば防止できます。)
これについて僕たちは今後リング&リングを使ったシステムの落下試験を始め各種ロープについての強度試験、それも新品と数年使用したもの、ノットを作ったもの等の比較を計画しています。
樹木のもつ柔軟性(しなり)も衝撃吸収をします。特にクライマーがリダイレクトをセットしていればより吸収力は高くなります。この吸収力を計量化するのは難しいので経験を積んで感じを覚えるしかありません。とにかく衝撃に備えたクライミングシステムの組み立てを常に念頭においてください。
クライミングのシナリオ
これから写真と解説で新システムの一例を見て頂きます。
1:1⇔2:1を状況に応じていかに簡単に切り替えられるかが分ると思います。
これはごく簡単な例です。
皆さんはこれをヒントに現場に応じて効率的で安全なシステムをアレンジできるようになると思います。
まず、スローラインを使ってロープを掛けてからランニングボーラインでクロッチに固定します。
ロープに体重を掛けてアンカーポイントの強度をチェックしてから1:1システムで登っていきます。

ここではフットアッセンダーを使っています。
ランヤードを袈裟がけしてハーネスのブリッジリングに付け、ヒッチハイカーを上に持ち上げてロープのたるみを少なくしています。
上に着いたらアンカーポイントを再度チェックしてリング&リングを取り付け、2:1システムに切り替えます。
『ロープを外す前には必ずランヤードを丈夫な場所に取り付け自己確保してください。』

そこから少し離れた枝又までリムウォークで移動します。
その枝又から下に降りるため、そこにバタフライノットを作りそれにロープエンドをハーネスから外して取り付け2:1から1:1に切り替えます。
ここで1:1にしておけば木を保護できると共にロープと枝又の摩擦も減らしてくれます。
バタフライノットは枝又より高い場所に作ります。
『ロープを外す前には必ずランヤードを丈夫な場所に取り付け自己確保してください。』

枝又の間から降りていきます。
下での作業が終了したら、またバタフライノットの場所まで登り返します。
そこでひと休み。

次の作業のために再び2:1システムに切り替えます。
バタフライノットからロープエンドを外してハーネスに取り付けます。
『ロープを外す前には必ずランヤードを丈夫な場所に取り付け自己確保してください。』

次の長い登りのためにバタフライノットをロープエンド近くに作りアンカーポイントのリング&リングまで引き上げて止め再び1:1システムにします。
『ロープを外す前には必ずランヤードを丈夫な場所に取り付け自己確保しでください。』
(バタフライノットは任意の場所に作れます。
ロープエンドを自分が今いる場所まで垂らしておけば、登っていく途中でいつでもまた2:1システムに切り替えが出来ます。
次の作業に応じてロープエンドの長さを決めることができます。)

作業が全て終了したら、アンカーポイントまで戻って2:1システムに切り替え地上に戻ります。
『ロープを外す前には必ずランヤードを丈夫な枝に取り付け自己確保してください。』


吊り上げシステム
ロープの途中にバタフライノットを作りカラビナとプーリーを付け足すと、レスキューで作業者も引き上げられる倍力システムを作る事ができます。

ここに紹介したシステムの他にもこれからまだ新しいシステムが出てくるでしょう。これらのシステムは原理をよく理解していないと安全に使えませんが、僕が考えついたシステムで確信が持てるものはツリークライミング最先端の情報として皆さんとシェアしていきたいと思います。興味を持たれた方、また質問や疑問がありましたらどうぞアウトドアショップKまで遠慮なくお問い合わせください。
ショップで企画するクライミングワークショップでも紹介していきたいと思っています。